脊椎動物

人間を含めて、今日、陸上で巨大な身体を維持しながら生活している動物は悉く脊椎動物である。脊椎動物は、その頭部・体幹・四肢に至るまで、身体内部の骨格により、身体の基本構造を支えるという共通した特徴を持っている。特に、その体幹内部の中央を背骨が縦断し、その中に中心的な神経脈を走らせ、身体全体を制御する仕組になっている。このような共通性を備えているのは、今日見られる多様な脊椎動物が、元を辿れば、たった一つの系列の種から分化してきたものだからである。

脊椎動物を含めた今日見られる生物の体制デザインがすべて出揃ったと言われるのが、約5億年前のカンブリア紀に起きた進化の大爆発であった。おそらくは眼の進化と動物どうしの捕食関係の登場に促されたのであろうが、カンブリア紀の初めに、それまでの生物には見られなかった硬質組織や高度な運動器官を持った多種多様な生物が登場し、生物種の数は一気に増加した。生物種がそれだけ短期間にそれだけ多くの種に分化したのは、進化史の中で後にも先にもこの時代しかないと言われている。

カンブリア紀は、眼を最初に獲得した三葉虫や、当時の食物連鎖の頂点に君臨したであろうアノマロカリスのような、身体の外側に硬質組織を持つ動物たちの天下であった。一方、我々脊椎動物の祖先はと言えば、当時、体長わずか数センチ程度の、まだ顎さえ持たない原始的魚類であったと考えられている。

しかし、カンブリア紀にはまったくの弱小生物であった脊椎動物の祖先は、その後の進化史上数度にわたる大絶滅をしぶとく生き抜きながら、極めて高度な体制を備えた種を次々に分化させていくことになる。まずは、魚類として、海流の中でも力強く自在に動き回る運動能力を獲得し、ついで、両生類として陸上に進出する際には、重力に負けずに動き回ることができる体幹構造と四肢を創り上げる。その後、爬虫類と哺乳類が分化するときに、陸上の乾燥に耐え得る皮膚組織と繁殖方法をそれぞれ違った形で発展させていく。

体内組織においても、陸上での激しい運動に耐え得るような心臓の構造の進化(一心房一心室 ⇒ 二心房一心室 ⇒ 二心房二心室)や、多種多様な外界情報の処理と、状況変化に即応できる運動制御を可能にするような脳の構造の進化(大脳・小脳・脳幹部の分化と、大脳の巨大化)を生み出すに至っている。特に、後者の脳の進化を可能にした所以は、体幹中央部に神経中枢部を走らせ、その先端に、眼・鼻・耳・口を備えた頭部を配置するとともに、その頭部に情報処理専用器官としての脳を収めた体制デザインそのものにあったと言えるであろう。