哺乳類

人間に至る進化史という点から見た場合、哺乳類の特筆すべき特徴は、恒温性と子育てということである。恒温性は、寒冷適応と運動能力向上に関わっており、子育ては、学習能力の向上に関係している。

恒温性

陸上において、高度な運動性を獲得し、地上の覇者となった最初の種は恐竜である。恐竜の骨格を今日の爬虫類と比べてみるとわかるが、恐竜は、(哺乳類と同様に、また今日生き残っている爬虫類とは違って)四肢が体幹から下に伸び、体幹を地上からかなり高い位置に持ち上げたまま四肢で支える身体構造になっている。更には、二本脚で立つ種さえも多数登場している。このような身体構造により、激しい運動や素早い移動が可能となる。当然のことながら、そのような運動を支える物質代謝・エネルギー代謝を可能にするような体内機構も存在したはずであり、その一部は今日の鳥類に受け継がれていると言われている。これに比べると、今日の爬虫類は、恒温性も持たないし、体制デザイン的にも運動性は極めて低い。

だが、その一方で、恐竜が、今日の哺乳類と同等の恒温性を持っていたかどうかは甚だ疑問であると言わざるを得ない。そもそも、恐竜が繁栄した中生代の地球は、全体として温暖な気候が続いた時代である。(それゆえ、各地に巨大森林が多数存在し、体長数十メートルにも及ぶ巨大草食恐竜の旺盛な食欲をも満たすことができるような生態系が成立していた。)そのような気候状況の中では、必ずしも、体温維持のための体内機構が今日の哺乳類なみに発達している必要はなかったであろう。

それに比べると、恐竜に代わって哺乳類が陸上の覇者となった新生代は、何度も氷河期が訪れたことからもわかるように、全体として非常に寒冷化した時代であった。この寒冷化した気候に適応する中で、体内温度を一定に保ち、寒い外気温の中でも高い活動性を維持することができる体制を獲得することに成功したのが、今日の哺乳類の祖先であるということができる。恐竜の方はと言えば、鳥類に進化した系列を除けば、新生代にはすべてその姿を消してしまっている。また、この点に関連して、今日、極地をはじめとする極寒の地に哺乳類・鳥類はいても、爬虫類がいないことも銘記しておくべきであろう。

子育て

今日見られる生物種の中では、哺乳類と鳥類を除けば、その他の種では、基本的に子供は産みっ放しである。子供は、産まれたら、基本的に自力で生きていかなければならない。ということは、何を食べ、どのような環境で過ごし、どうやって繁殖するか、という情報は、親から遺伝的に受け継いでいなければならないということである。このような、遺伝的に受け継がれた情報に基づく行動様式のことを、通常、本能と呼ぶ。

しかし、脳が発達し、記憶という情報処理過程を備えるようになれば、本能だけでなく、自分が過去に経験した事柄から抽出した記憶情報を引き出してきて、行動決定に際して役立てることができる。これが学習と呼ばれる活動の原型であり、過去の経験をどのように分析して、のちの行動に役立てるかという分析力が学習能力の質の高さを決めることになる。

ただ、ここまでだと、生物個体が持つことができる認識内容は、その個体が備えた本能と個体経験の範囲内にとどまることになる。それを超えたところにあるものは、認識の埒外である。

しかし、子育てという生活過程が登場することにより、この限界を突破することが可能となってきた。すなわち、単に子供に餌を与えて庇護するだけでなく、養育過程において、餌の取り方をはじめとする生活にとって必要な知識を教え込むことができるようになったのである。教育という活動の萌芽である。これにより、親の世代が獲得した知識や行動様式を、遺伝によらずに子供の世代へと伝えることができるようになった。また、子供にとっての学習は、自らの経験のみに頼る行き当たりばったりなものだけではなく、親の世代までに受け継がれてきた(生存にとって適切なという意味で)合理性のある知識・行動を効率的に受け継ぐという面を持つようになったのである。